待ち望んでくれる人がいる、ピースボートクルーズの寄港地
忘れもしない。そして、忘れてはならない2011年3月11日。巨大地震によって、未曾有の大災害、東日本大震災が発生した日。甚大な被害を受けた街のひとつが、宮城県の北東部に位置する石巻市でした。震災の2年前、この街に設立されたのが「石巻港大型客船誘致協議会」。これから石巻市の食文化や日本三景の松島など、多くの魅力を世界に伝えようとしていた矢先に発生した3.11。あれから12年。復興への道を歩み続け、本格的に客船の受け入れが開始されました。発災以来、延べ10万人を超えるボランティアとともに石巻で災害支援を続けてきたピースボート。今回は客船「パシフィック・ワールド号」にて、多くの参加者とともに石巻を訪れました。
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文・構成/多賀秀行 写真/PEACE BOAT
大歓迎されたピースボート
ピースボートクルーズとしては、新たにチャーターした客船「パシフィック・ワールド号」で初めての石巻寄港。石巻港としても新型コロナ禍後、初めての外国客船の寄港。加えて震災以来、顔の見える関係が続いてきたことで、現地の方々が待ち望んでいてくれた寄港でもありました。入港時、ピースボートクルーズを驚くほど盛大に出迎えていただきました。岸壁では地元の方々は、カラフルに彩られた大漁旗をはためかせ、ジュニアオーケストラの皆さんによる演奏。そして石巻市長をはじめ、大型客船誘致協議会に参画する市長・会長や町長からの歓迎のセレモニー。そのおもてなしに、スタッフはもちろん参加者も胸を打たれていました。感嘆の声を上げたり、カメラのシャッターを切ったり。それぞれが目前のできごとだけでなく、その背景に想いを寄せていました。
石巻市長からは「東日本大震災から12年が経過しました。全国の皆さんからたくさんのご支援と励ましをいただきました。ピースボートクルーズの船長はウクライナ出身と聞いています。私たちも、ウクライナに一日も早く平和が、そして元の生活が戻ることを心から祈っています」とのお言葉を頂戴しました。
セレモニーが終わると、「パシフィック・ワールド号」を下船した参加者の皆さんは、それぞれの目的地へ。石巻市内や松島、東松島、女川など、雲一つない晴天という最高の天気の中、次々と出発していきました。
石巻のいまを訪ねる
まずご紹介するのは、まさにピースボートクルーズならではの「歩いて知る被災地、石巻のいま」と題したツアー。東日本大震災の記憶と教訓を学ぶためのものです。長年、伝承活動を続けている「3.11メモリアルネットワーク」の皆さんから、震災当時の話や教訓をお伝えいただきます。震災遺構「門脇小学校」や震災伝承交流施設「MEET門脇」、「みやぎ東日本大震災津波伝承館」などを訪れました。
「門脇小学校」は、津波だけでなく火災の被害も受けた学校です。燃え残った校舎や教室の生々しい光景に、目を覆いたくなります。しかし参加者の皆さんは真剣な眼差しで目に焼き付け、ガイドさんの話に耳を傾けていました。そこに確かにあった子どもたちの学びの場。この場は言葉を発せずとも、震災を物語っているのです。
「MEET門脇」では12m×3.5mもの巨大スクリーンがある2面投影シアターで避難の知見を学びます。また当時の記憶を留める靴などの被災した遺品が、震災が現実だったことを改めて今に伝えています。そして震災を知らない世代、特に子どもたちが興味を持って学べるようにアニメーションを使うなどの工夫がこらされていました。さまざまな方法で後世へ伝え続けているのです。
石巻・松島の魅力にふれる
ノルウェーやカナダの沖合と並び「世界の三大漁場」のひとつと呼ばれる三陸沖。世界に誇る漁場だけに、やはり新鮮な海産物が自慢です。石巻中心部に位置する「いしのまき元気いちば」は、新鮮な魚介はもちろん産地直送の野菜や果物、三陸ブランドの名産品、石巻圏発の雑貨類が揃う、一大マーケット。地元の人ですら知らない隠れた名産も取り扱うなど、その品揃えは見ているだけでもワクワクします。2階へ上がると、140席もあるフードコートが出迎えてくれます。寄港当日は最高の天気だったこともあり、テラス席で新鮮な海の幸に舌鼓を打つ人が多く、あちこちから「美味しい!」という声が上がっていました。
多くの名所にもアクセスが容易なのが石巻。宮島、天橋立とともに日本三景に数えられる松島に行くことも可能です。大小260もの島々をのぞむ松島湾クルーズでは、仙台藩主・伊達政宗や作人・松尾芭蕉をも魅了した絶景に出会えます。2011年、ユネスコ世界遺産に登録された平泉を訪ねるツアーもありました。そこにあるのは「極楽浄士を表現した」という金色堂をはじめとした、平安仏教の美。平泉が表現した「理想世界」は他に例のないものとして知られているのです。他にも、仙台まで足を延ばし仙台藩祖・伊達政宗像で知られる仙台城址や政宗が眠る鑑廟・瑞鳳殿など、仙台ゆかりの地を巡ることも可能です。
石巻港を出港し、次なる寄港地へ
参加者の皆さんはそれぞれの時間を過ごし、出港時間が迫る船上へ。船内ではあちこちで「今日食べた海鮮は本当に美味しかった!」「津波被害の現場を初めてみました」「平泉は本当に素晴らしかった!」などなど、感想を伝え合う姿。時計の針が出港時間を指すと、岸壁から響く東松島の太鼓の音。そして船が離岸するその時、夜空に大輪の花火が咲きました。入港時だけでなく、出港時までも盛大なおもてなしをいただき、参加者も予期せぬサプライズに大盛り上がり。ここまでしていただけたのもきっと、一朝一夕では築けない関係ができたからこそかもしれません。ピースボートクルーズは、今後も現地の歴史や文化、そしてなによりその地に暮らす人々の想いを大切に。そして世界中で待ってくれている人々に出会うためにも、航海を続けていきます。
国際NGOピースボートの災害救援は、1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに、台湾、トルコでの大地震、ハリケーン・カトリーナ(米国)、スマトラ沖地震と津波被害に見舞われたスリランカなど、世界各国で活動してきました。東日本大震災の被災者支援のため、ピースボート災害支援センター(PBV)を設立して以降も、日本各地の地震被害や風水害の被災地へスタッフ・ボランティアを派遣して緊急支援を行うほか、国際ネットワークを活かした海外での災害支援も展開しています。
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