自然に、歴史に、社会に―連綿と受け継がれる幸福のありかをアイスランドに探して
類まれなる自然とともに生きる環境先進国であり、数々の社会的取り組みによって世界をリードするアイスランド。力の強さや数の多さではなく、対話によって平和を希求し、誰もが安心して暮らせる社会をめざしてきたアイスランドから見えてくる、幸せのありかとは― 駐日アイスランド大使のフレイン・パウルソン氏と、大使館スタッフのルーツ・エイナルスドッティル氏にお話を伺いました。
協力:アイスランド大使館
フレイル・パウルソン / 駐日アイスランド特命全権大使
2005年にアイスランド外務省へ入省後、上海領事館、モスクワ副大使、ワシントン首席公使など、国際外交の第一線でキャリアを積み、2025年7月より駐日アイスランド特命全権大使に就任。
パウルソン氏:ピースボートクルーズの皆さまが、これまで何度も私の祖国を訪れてくださったこと。また、こうして私の口からアイスランドの社会的な取り組みをお伝えできることを、とてもうれしく思います。 アイスランドは、世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数が16年連続で1位。つまり、性別による格差がとても小さい国として国際社会に認められています。これにはさまざまな要因がありますが、政府が推進する取り組みの中でもっとも重要なのは育児休業制度だと思います。特に、男性では約9割が育児休業を取得しており、例えば皆さまがレイキャビクに寄港した際に街を歩く機会があれば、男性がベビーカーを押す姿を見ることもあるでしょう。私自身の経験からも、子どもたちが幼い時期に親として育児に関われたことは、決して手放したくない、かけがえのない時間でした。
「人は死の床で、もっと仕事をしておけばよかったとは決して思わない。むしろ、大切な人たちともっと時間を過ごしたかったと思うものだ」という古いジョークがあります。この育児休業制度は、まさにそのための時間を生み出すものだといえるでしょう。私の家庭にも3人の子どもがいます。学校への送りは私で、迎えは妻。仕事から帰宅後は2 人で一緒に子どもたちの宿題を見たり、シャワーの準備をしたりする。ジェンダー平等というと、女性が何かを「得る」問題として語られがちですが、長い間女性が担ってきた役割や経験に男性も関わる機会を得ているという点では、むしろ男性が「得ている」ものがあるといえますよね。
エイナルスドッティル氏:だからこそ、私たちは常に「ジェンダー平等はすべての人のためのものだ」と捉えています。現在のアイスランドでは、経済的な責任であれ、子育てや家事であれ、あらゆる役割がパートナー間で共有されるようになり、それが結果として幸せな社会をつくっているのです。
パウルソン氏:アイスランドは、世界の国や地域がどれだけ安心して暮らせる場所であるかを示す指標「世界平和度指数」でも、17年連続1位にランクインしています。アイスランドの人びとの日常生活や文化に根付く“平和の価値観”。それを、訪れた皆さまが実際に体感できる場が今も残っています。アイスランドはかつて、ノルウェーの支配やデンマークの植民地となることを選択した時代がありました。そうした状況下では国内に莫大な富が蓄積されることはなく、そのためアイスランドには「城」がありません。城壁はもちろん、宮殿もないのです。では、その代わりに何があったのか―これが、我々のもつ平和の価値観の礎にもなっている、アイスランドの国民議会「アルシング」です。
アイスランドの観光名所である「ゴールデンサークル」。そのひとつに名を連ねるシンクヴェトリル国立公園は、かつてアルシングが開かれていた場所でした。各地域の代表者たちが毎年この地に集まり、対話を重ねながら自ら法律を定め、裁定を下していたのです。アルシングは西暦930年頃から植民地時代を経て、場所や形式を変えて現在に至るまで続く世界最古の議会であり、“集団として平和的に解決策を見いだす”文化が長い歴史の中で培われてきたのです。
エイナルスドッティル氏:アルシングが開かれていたシンクヴェトリルが、北米プレートとユーラシアプレートのふたつのプレートが存在する場所に位置しているというのも非常に象徴的です。大陸と大陸を繋ぐ場所であると同時に、対立する意見の間に橋を架け、対話をつないできた場であるともいえるでしょう。
パウルソン氏:そして、皆さまにはぜひアイスランドの環境サステナビリティと平和の結びつきについても、直接的に体験していただきたいです。アイスランドは、電力のほぼ100%が地熱や水力でまかなわれている国。その地熱発電の活用例のひとつであるプールや温泉文化が、先日ユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。アイスランドでは人びとが習慣としてプールに行く文化があり、そこで自然と会話をし、議論を交わします。皆が水着姿で、皆が平等で、同じ目線で意見を交わすことができる――肩書を示すバッジや地位を象徴するものを身に着けていなければ、そこにいるのはただのひとりの人間なのです。ですから、私たちはこうした場を通じて、環境と日常生活、そして平和な対話の文化を結び付けているのです。
しかし、とても残念なことに、現在地球規模で問題となっている気候変動の影響は、アイスランドにも確実に現れています。たとえば私が子どもの頃、学校でアイスランドの地理を学んだ際に、「国内で最も大きな氷河を7つ覚えなさい」と教えられました。ところが今、私の子どもたちは6つ覚えればいい。なぜなら、そのうちのひとつはもう消えてしまったからです。これはとても悲しい現実で、その氷河が消滅した際には葬儀まで行われ、多くの人が悲しみに暮れました。地球は何世紀にもわたって気候変動を経験してきましたが、アイスランドではその変化があまりにも急速に起きているのです。
エイナルスドッティル氏:ですから、皆さまにはぜひ氷河を訪れてほしいと思います。それに、寄港するレイキャビクは市内から車でわずか15分走るだけで山があり、自然を楽しむことができます。都市のすぐそばに広がる、自然の静けさ。この静けさこそが、私たちの社会にある“平和さ”を支えるひとつの要素でもあるのです。
エイナルスドッティル氏:皆さまがアイスランドを訪れた際は、ほんの一瞬でも立ち止まることを大切にしてほしいです。それが大自然の中であろうと、プールや温泉であろうと、その場の空気を吸い、その感覚を全身で味わってほしいのです。旅をしていると、どうしても「すべてを見たい、体験したい」と気持ちが先へ先へと進んでしまいがちです。だからこそほんの短い休憩をとり、立ち止まり、ただ見るだけでなく“心で受け止める時間”をもってほしい。そうすることで、アイスランドという場所がより深く心に残るはずです。
パウルソン氏:さまざまな国を訪れ、異なる文化や環境を自らの目で体験すること。それは、世界をより広い視野で理解するために欠かせない体験であり、同時に、自分たちがどれほど恵まれた環境にいるのかを改めて知る機会にもなります。それを当たり前だと思わず、他者をより深く理解し、置かれている状況や困難に思いを寄せ、思いやりをもつ―ピースボートクルーズの旅が皆さまにとって実り多く、そして視野を大きく広げるものになることを心から願っています。
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