地球の鼓動が聞こえる、遥かなるワンダーグラウンドへ
国名、それは時にイメージを植え付けてしまうものでもあります。『氷の大地』と名付けられたヨーロッパの北の果てに浮かぶ島国アイスランドも、その一例かもしれません。氷に覆われ、一年中寒く厳しい環境である…と。しかし訪れた彼の地は、吸い込まれそうなほど澄み切った空に雲がたなびき、変化に富んだ大地と温かな街並みが共存する物語の世界のような場所でした。無数の火山とヨーロッパ最大の氷河、季節によって姿を変える空や大地、生きている地球を体感できる見どころが数知れず点在しています。手を伸ばせば、そこには絶景が――まだ見ぬ地球に会いに、遥かなるアイスランドの地を旅します。
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文 / 編集部
雄大な景色に手招かれて
初夏、峰々にはまだ雪が残るなか足元には草花が芽吹き、これからはじまる夏への期待に満ちているよう。太陽の沈まない「白夜」が、幻想的な光景を見せたかと思えば、季節が廻り冬の訪れが近づくと、空を舞台に神秘のヴェール、オーロラが揺らめきます。9世紀頃、アイスランドに移住してきたヴァイキングたちは自然豊かなこの島を侵入者から守るために、あえて「氷の大地=アイスランド」と名付けたという逸話があります。逸話とはいえ、この国の自然にまつわる話はどこか文学的な雰囲気をもち、実際こうして美しい光景を目の当たりにすると、その素晴らしさを語る言葉はそう簡単には見つかりません。
国民の誇り、世界文化遺産「アルシング」
レイキャビクから車で2時間ほどの場所には、シンクヴェトリル国立公園、巨大間欠泉、アイスランド随一の滝であるグトルフォスの滝があり、この3カ所はゴールデンサークルと呼ばれています。 まるで大地が呼吸するかのように水面が上下し、およそ4~8分間隔で轟音とともに水しぶきが噴き上がるのは、ストロックル間欠泉。穴の中からボコボコと音を立てながら水面が盛り上がり、一気に吹き上がる様子を間近に見られます。 グトルフォスの滝は、毎秒平均140トンの水が、溶岩層の上を白い水煙を上げながら2段構えに流れ落ちる雄大な滝です。生きている地球と自分が一体化するような感覚が味わえます。
シンクヴェトリル国立公園は、海底山脈が地上に露出しているとても珍しい場所です。「ギャオ」と呼ばれる割れ目を境にユーラシアプレートと北米プレートが左右に引き合い、今でも年に数センチずつ国土が広がっているそう。そんな”生きた場所”を舞台に西暦930年から開かれてきたのが「アルシング」と呼ばれる世界最古の民主会議。静寂の中、この大自然の中に島民たちが集い、アイスランドの憲法が制定され、独立も宣言されたという事実に想いを馳せると、なんだか胸が熱くなります。
暮らしに寄り添う自然のエネルギー
ゴールデンサークルで目の当たりにした地球のパワーを、今度は別のかたちで体験します。荒涼とした大地に突如として現れたのは、広さ5,000平方メートルの世界最大の露天風呂「ブルーラグーン」。隣接する地熱発電所の地下から汲み上げられた熱水の排水を再利用した人工温泉です。立ち昇る湯煙に包まれて乳白色のお湯につかれば、まるで地球という巨大なお風呂につかっているかのような解放感!火山の国アイスランドで地熱は重要なエネルギー源。国内の電力の約7割は氷河や滝の水量を活かした水力発電、残りの3割は地熱発電と、まさにクリーンエネルギー大国なのです。
自然が包みこむ街
唯一無二の大自然を堪能したあとは、世界最北の首都レイキャビクを散策します。街の人口は12万人ほど、歩いてまわれるコンパクトさです。まずは、街のランドマーク・ハットルグリムス教会へ。この教会は、噴火した火山から流れ出て冷え固まったマグマをイメージして設計されました。近未来的でありながら、自然と調和するようにレイキャビクの街に溶けこんでいます。展望台に登れば、色とりどりのおもちゃ箱のような光景が目の前に広がります。カラフルで温かみを感じる家々は、北の大地で心まで暖めてくれます。
そして街を歩くと出会う不思議で個性的な建築物。そのデザインは山や大地、光の輝きなどからインスピレーションを受けているんだとか。アイスランドにいると街や人までもが自然の一部であり、地球の営みの一部であることを強く感じます。北の果ての小さな島国アイスランド。ここはたくさんの「ワンダー」に出会える、スケールの大きな国でした。 アイスランドを離れる私たちを、夜空に向かって青白く伸びる光の塔「イマジン・ピース・タワー」が見送ります。「またいつか来れますように・・・」心の中でそっと祈ります。
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