特別展「大南極展」へようこそ
ピースボートクルーズが、冬に出航する世界一周クルーズで訪れているのは「地球最後の秘境」とも呼ばれる南極です。
地球のありのままの姿が残るこの場所を長年にわたり取材し、南極観測の現場を伝えてきたのが、朝日新聞記者の中山由美さんです。
南極観測70周年を記念して、日本科学未来館では特別展「大南極展」が開催されています。南極を「見て、知って、考える」ことのできるこの特別展を中山さんにご案内いただきながら、南極観測の歴史やその意義、そして南極を訪れることの意味についてお話を伺いました。
◆特別展「大南極展」◆
https://dainankyokuten.jp/
中山由美 / 朝日新聞記者
南極・北極を取材し、南極は45次越冬隊、51次夏隊での隕石探査、61次越冬隊、67次夏隊に同行。北極はグリーンランドなど8回にわたり取材し、極地観測の意義を広く伝えてきた。著書に『北極と南極のへぇ~ くらべてわかる地球のこと』(学研)、『南極で宇宙をみつけた!』『こちら南極 ただいまマイナス60度』(ともに草思社)。共著に『南極ってどんなところ?』(朝日新聞出版)など。
文:カナマルトモヨシ / 写真:内田龍
取材協力:日本科学未来館 / 朝日新聞社
南極に立つことの素晴らしさ
人間が建設した施設や都市環境から離れ、地球が本来持つむき出しの姿を身体全体で感じられる。それが、南極の最大の魅力ですね。ここでは寒さ、風、広大な空間、自分の足で歩く感覚を含めて体験することに価値がある。南極に立つ素晴らしさとは、そういうところにあるのだと思います。「大南極展」は南極観測70周年を記念して開催されています。 ところで、日本の南極観測の始まりには朝日新聞社も深くかかわっていることをご存知でしょうか?1955年3月、朝日新聞は「北極と南極」という連載記事を開始しました。そのきっかけとなったのが1957~58年に実施予定の「国際地球観測年」でした。これは、地球上で起きるさまざまな現象を検証するため、世界の国々が協力して同時期に地球を調べようという試みです。この連載記事がもとで日本政府や国民の南極観測に対する機運が盛り上がっていきます。そしてブリュッセルで開かれた「南極会議」で日本の南極観測参加が国際的に認められます。1956年11月8日、初代南極観測船「宗谷」は東京・晴海ふ頭から出港。暴風などを乗り越え翌年1月29日、南極オングル島に公式上陸し、ここを「昭和基地」と命名しました。これが現在にいたる日本の南極観測の第一歩となったのです。
地球の「健康診断」に不可欠な南極
南極の氷床から掘削されたアイスコアの展示は必見です。氷は雪が降り積もってかたまったもので、当時の大気や遠くから流されてきて落ちた火山灰、海塩、土壌などが閉じ込められています。展示されているアイスコアは深さ2499メートルから掘り出した約34万年前の氷の実物です。第2期掘削では深度3035メートルで約72万年前の氷が得られました。閉じ込められた大気成分の分析から過去の温度変化を推定できます。そこでわかったのは現在の二酸化炭素濃度が、過去72万年間で経験のない高さ、400ppmを上回っていること。産業革命以降の人間活動の影響によって、現代は従来の気候サイクルから外れた状態にあるのです。日本の観測隊は地上の二酸化炭素濃度も継続して観測しています。南極など人間活動から離れた地点では、地球規模の安定した基準値を把握しやすく、長期的な濃度上昇を明確に捉えることができます。南極では植物の活動の影響を受けることなく、長期的な上昇傾向がより滑らかに見えるのです。南極のように人間活動の影響を受けにくい地点で継続的に観測することが、地球の「健康診断」に不可欠です。日本の南極地域観測隊が1982年の春先に上空オゾン濃度の急減を観測し、その後、オゾンホール現象とフロンガスの関係が国際的に解明されました。フロン規制への国際協調により、オゾンホールは改善傾向にあり、環境問題に共同で取り組めば成果を得られる好例です。
コウテイペンギンに見る「平和の価値・国際協力」
こちらはコウテイペンギンのはく製です。今年4月、国際自然保護連合(IUCN)はコウテイペンギンの絶滅危機レベルを、絶滅の恐れが極めて高いとされる「絶滅危惧種」に引き上げました。IUCNの予測では、コウテイペンギンの個体数は今後50年で半減し、今世紀末には絶滅に至る可能性も懸念されています。コウテイペンギンは冬に海氷上で繁殖し、卵を温める期間も長いため、海氷の減少・薄化・面積縮小が繁殖期に直接影響を与えるんです。コウテイペンギンを南極条約上の特別保護種とする提案は以前からありますが、今年5月に広島で開催された南極条約協議国会議では中国やロシアが反対。協議国29ヵ国の全会一致が必要なため合意できませんでした。各国代表が自国の政治的立場を背負うため、国益や国際関係が議論に強く影響する現実を感じました。でも2020年に日本の南極地域観測隊の病人搬送でロシアの船が協力したように、各国の基地・研究者間での交流があり、国境を意識しない協力が長く続けられています。南極における「平和の価値・国際協力」は重要なんです。
隕石採集の聖地・南極の大スケール
南極で見つかった本物の隕石を30点以上展示しています。なぜ南極が「隕石採集の聖地」と呼ばれるのかというと、氷床が長期的に流動して山脈付近でせき止められ、氷が風や日差しで昇華して失われることで、氷に閉じ込められていた隕石が氷の表面に現れるためです。南極の隕石は風化や生物の接触の影響を受けにくく、保存状態が良いのです。日本の観測隊は1969年以降に約1万7400個もの隕石を採取してきました。ここでは手でさわれる鉄隕石や、月・火星から飛来したと考えられる希少隕石、さらに大阪・関西万博で展示され話題を呼んだ「さわれる火星隕石(スライス)」の実物も展示しています。また、南極の沿岸や内陸の山には、土壌や植生に覆われていない岩盤が露出している所があり、数億年から数十億年規模の地質を直接観察できます。さらに、昭和基地周辺でインドやスリランカと共通する岩石がみつかることは、約6億年前に形成され、現在のアフリカ、南アメリカ、オーストラリア、南極、インドなどが一体となっていた巨大なゴンドワナ超大陸の分裂と大陸移動の歴史を理解する手がかりになるのです。 南極は地球を知るための「窓」であり、宇宙ともつながるスケールの大きさを持っているんです。
いま「大南極展」、そして実際に南極に行くべき理由
何度も南極で地球というものを体感するたびに、こう思うのです。いろんな生物が進化してきたなかで、人間なんて、地球上で最後の方に生まれた、ちっちゃな生物じゃないか。人間って高等動物だと思ったけど、こんなに自分たちの環境を汚し、壊しながら生きている生物は他にいないわけで。また無駄な戦争や殺戮をしている人間は、もしかしたら一番下等な動物かもしれない。毎回私も講演の最後に南極条約の理想を掲げます。領土権を主張しない、地下資源開発しない、そして環境を守る。「国境がなく、どこの国でもなくてみんなの共有の物として守っていこう」という発想が本当に大切。地球全体でそう思えたら、今のようなひどい戦争とかは起きないわけです。だから、地球単位で物事を自分でいったん考えてみる機会って、皆さんあってもいいんじゃないでしょうか。それこそが「実際に南極へ行くことの意義」だと思いますし、そういう意味では、世界一周の船旅はいい機会になるでしょう。そしてここ日本で、地球について思いをはせる絶好のチャンスが「大南極展」です。それがいま、「大南極展」が開かれている意義で、見にいくべき理由なんだと思います。
南極観測70周年記念
特別展 「大南極展」
日本は70年間にわたり南極観測を続け、その積み重ねは気候変動の解明や未来予測にも大きく貢献してきました。そんな南極観測の成果を「体験しながら理解できる」展覧会が、日本科学未来館で開催中の特別展「大南極展」です。
会場では、南極に上陸したかのような没入感を味わえる大型映像やブリザード体験をはじめ、南極で見つかった隕石、数々の展示や昭和基地の紹介などを通して、南極の自然や観測隊の活動について知ることができます。
さらに、入口で渡される「ミッションシート」をもとに会場内をめぐるミッションに挑戦。達成すると「特別南極観測隊員」に認定されるなど、主体的に楽しめる“体験型”の展示も用意されています。
南極の自然や観測の世界を、見て、触れて、体験してみませんか。
◆特別展「大南極展」◆
会期:2026年7月1日(水)~9月27日(日)
開館時間:10:00~17:00(入場は閉館の30分前まで)
※休館日はホームページにてご確認ください
料金:有料
会場:日本科学未来館 1階 企画展示ゾーン
住所:東京都江東区青海2-3-6
特別展「大南極展」について詳しくは
https://dainankyokuten.jp/
主催:日本科学未来館、国立極地研究所、ドリームスタジオ、テレビ朝日、朝日新聞社
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