芸術の都に息づく名建築を訪ねて
情熱と彩りに満ちたスペイン第二の都市バルセロナ。19世紀後半、産業革命をいち早く成し遂げたバルセロナでは「モデルニスモ」と呼ばれる芸術・文化運動が興りました。それは単なる新しさの追求ではなく、バルセロナが属するカタルーニャ州独自のアイデンティティを模索するものでもありました。ガウディを筆頭に、稀代の建築家たちが追い求めた「夢の景色」をこの目で見たい——地中海特有の乾いた陽射しが照らす魅惑の街で、世界遺産でもある6つのモデルニスモ建築をめぐります。
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文・構成 / 編集部 写真 / PEACE BOAT
花の建築家、モンタネール
港近くの広場でコロンブスの像に迎えられたあと、たくさんの人で賑わうランブラス通りを歩いて重厚な街並みの旧市街へ。その一角にひときわ豪華絢爛な建物が姿を見せます。モデルニスモの一翼を担ったモンタネールの最高傑作、カタルーニャ音楽堂です。当時は最新の建築材料だった鉄を骨組みに使い、外壁は多種多様な花のタイルや彫刻で彩られています。極めつけはその内装。ステンドグラスに囲まれた大ホールを飾るシャンデリアは、言葉をなくすほどの美しさと優雅さ。早くもモデルニスモの熱に心を掴まれてしまったようです。
革新性に満ちた、ガウディ作の邸宅
モデルニスモの中心地となったグラシア通りに沿って並ぶのは、かのアントニ・ガウディが改装を出がけた邸宅カサ・バトリョ。極彩色のガラスモザイク、骸骨のようなバルコニーや屋根のウロコが、見る者の想像力をかきたてます。ここから徒歩5分の場所に建つ、同じくガウディ作の邸宅カサ・ミラも、自然をモチーフにし「生命を表現する建築」と言われています。どちらも曲線美が特徴で、ドアや階段など細部にまで趣向をこらし、また自然光を取り入れるための中庭を設けるなど、革新的で住みやすさを追求した造りにもなっています。
未完の世界遺産、サグラダ・ファミリア
地下鉄の駅から地上に出た途端、目に飛び込んできたのは天高くそびえ立つサグラダ・ファミリア。「やっと会えた」——期待と興奮が身体を駆け抜けてゆきます。1882年に着工後、31歳の若さで2代目の建築家に就任したガウディ。建物全体を「石の聖書」と捉え、世界遺産の「生誕のファサード」は緻密な彫刻によってキリストの誕生が表現されています。未完であるがゆえに、まるで生きているような雰囲気をまとう石の大聖堂。全景を仰ぎ見たり、細部の彫刻に目を凝らしたり、果てしなく広がるガウディの世界観を心ゆくまで堪能します。
ブロンズ製のツタの葉が施された生誕のファサードから聖堂内へ。そこには外観からは想像もできない空間が広がります。樹木のような白い柱が枝分かれしながら天井へと伸び、降り注ぐ光は木漏れ日のよう。聖堂の東側には寒色系、西側には暖色系のステンドグラスが配され、日の傾きによって聖堂内の彩りに変化を生んでいます。実はとても緻密に考えられた聖堂内の構造に、「奇抜」と呼ばれるガウディのイメージが変わってゆくのを感じます。主祭壇、鐘楼、巻貝のような螺旋階段など見どころは数知れず、時を忘れて佇んでしまいます。
世界一美しい病院
名残惜しい気持ちでサグラダ・ファミリアを振り返りながら、北へと延びるガウディ通りを歩きます。正面に見えてきたカラフルな建物群はサン・パウ病院。装飾タイルやステンドグラスに見られる花々から、ここがモンタネールの作品であることが見てとれます。一見華やかに見えますが、院内は生命をイメージさせるピンクや淡く規則的な色使いのせいか心が鎮められるような印象も。建物を地下通路で結ぶなど機能性にも優れていました。「芸術には人を癒す力がある」というモンタネールの信念は、時を経てもその優美さを謳い続けています。
ガウディの遺した、夢の跡
街を一望できる丘の上にあるのは、ガウディが出資者のグエル氏の依頼で進めた田園住宅街の名残であるグエル公園。モデルニスモ建築の特徴である、カラフルな破砕タイルを敷き詰めたトレンカディスという技法が園内を彩ります。破棄された陶器の破片を使った滑らかな曲線を描くベンチは、人間工学に基づいたデザイン。建物を見上げ過ぎて少し痛む首をさすりながら、ベンチに腰掛け暮れなずむ街を眺めます。モデルニスモの熱情を肌で感じた一日。「生きる歓び」を表現した建築家たちが遺した夢の跡は、今もこの街を彩り続けています。
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