地球最後の秘境、ギアナ高地
「こんなの見たことない……」気付けばそう呟いていました。自分が今、上空からギアナ高地を目の当たりにしていることがにわかに信じがたいですが、紛れもなくここは「地球最後の秘境」と呼ばれる場所。眼下には果てしない深緑のジャングル、そして正面には荒々しい岩山が迫ります。未知なる大地との出会いに期待が高まる半面、想像をはるかに超えた場所に来てしまったことに尻込みしそうにもなります。それでもやはり勝るのは、これまで訪れたどんな場所とも異なる光景への好奇心。18億年前の地球が残る、南米ギアナ高地へ。未知への旅が幕を開けます。
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文・構成 / 編集部 写真 / PEACE BOAT
世界自然遺産カナイマ国立公園
セスナ機が到着したのは、ベネズエラにあるカナイマ国立公園。6つの国と地域にまたがる広大なギアナ高地の中心的存在です。のんびりしている暇はないと、さっそくジャングルの中を通ってカナイマ湖へ。湖面がスクリーンのごとく青空を映し出しますが、足元を見ると湖の水自体は赤茶色をしています。混濁した色ではなく、透き通った茶色の水は初めて目にしましたが、これはこの土地固有の植物に含まれるタンニンが溶け出しているからなんだそう。ギアナ高地があるのは赤道近くの熱帯地域、発達した雨雲によって頻繁に起こるスコールが、大地を流れて湖や川まで運ばれてくるのです。
カナイマ湖へも滝が注がれていると聞き、ボートで向かいます。近づくにつれ聞こえる轟音、目の前に現れた滝はものすごい迫力!桁違いの水量は、すべてを流し去ってしまいそうなほどです。「ギアナ」とは「水の国」を意味するそうですが、その名にふさわしい豊富な水量によって生み出されたのが、滝の向こうにそびえるテーブル状の山「テプイ」です。先ほど上空から見えたテプイの断崖は、18億年前に誕生した地層が強い雨や風に削られながら長い年月をかけて残ったもの。気の遠くなるような時間をかけて誕生したテプイが100個もあると聞けば、いかにギアナ高地がスケールの大きな場所かがわかります。
「神の住む山」を目指して
一夜明け、素晴らしい朝焼けがギアナ高地を包みます。今日は公園内最大の岩山アウヤン・テプイと、そこから流れる落差約1,000メートルの滝、エンジェル・フォールを目指します。屋根のないボートに乗って川を遡上すれば、さながら気分は探検家!巨大な岩山、滝、川、森、湿原……ギアナ高地をかたちづくる雄大な自然が、私たちを迎えます。名前も知らないカラフルな鳥がジャングルから飛び立ち、見たこともない個性的な花を咲かせる草木の姿も。目にする光景が次々と驚きを与えてくれ、ここはまだギアナ高地の一部でしかないという事実が、内なる冒険心をかきたてます。
ボートを降りてトレッキングも楽しみます。浅瀬付近のごつごつした道に手こずりますが、少しずつ近づいてくるテプイの姿を励みに、太古の大地を前へと進みます。目指すアウヤン・テプイは周囲約650キロ、東京23区がすっぽり入ってしまう大きさ。さらに頂上台地には下界と隔絶された環境下で生息する動植物がいると聞けば、好奇心がむくむくと頭をもたげます。しばらく歩いたのち「ほら見て!」と声をかけられました。視線の先にはそびえ立つアウヤン・テプイの断崖と、その頂から放たれるエンジェル・フォールが。もはや言葉もいらない、神々しいまでの光景です。
驚異の滝が見せる、一瞬の儚さ
雲間から射す光がテプイを照らします。テプイとは「神の住む山」を意味するそうですが、下から仰ぎ見ても文字通り神秘的で霊的な姿。流れ落ちる滝の躍動感に身体が身震いするようです。もっと間近で滝を見たくて直下の展望台へと向かうものの、滝壺は見当たりません。落差が1000メートルもあるがゆえに、滝の水が霧となって消えてしまうのです。断崖絶壁から宙へと放たれた大量の水は、最後までその姿をとどめることなく霧散して、このギアナ高地を潤していきます。スローモーションのように儚さをまとって流れ落ちるそのさまを、私たちがとらえることはできません。
すべてを超越した岩山、世界最高落差の滝……これほど秘境らしい場所へたどり着くと、ある種の達成感が訪れるのかと思っていましたが、それは違いました。胸に去来するのは、未だ見ぬものへの募る思い。徒歩で一週間かけて登頂するというロライマ山にも行ってみたい、テプイの頂上に生息するらしい新種の生物をこの目で見たい。ギアナ高地は冒険心をかきたてられる、ロマンあふれる場所でした。地球にはまだ自分の知らない場所、たどり着けない場所がある。だから旅に出るんだ——帰路をゆくボートから少しずつ小さくなるテプイと滝を目に焼き付け、ギアナ高地への再訪を誓いました。
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