歴史が育む文化の融合、海峡で交差する美しき世界へ
『文明の交差点』。世界史の中でたびたび使われるこの言葉を体現する場所、それがアジアとヨーロッパにまたがるトルコ最大の都市、イスタンブールです。全長30キロメートルのボスポラス海峡が隔てる街は、「東洋」と「西洋」、「キリスト教」と「イスラム教」などいくつもの概念が交差する地として知られています。エキゾチックで優美、オリエンタルで壮麗、どんな言葉で飾っても足りないほどの個性を放つイスタンブールの街を知るには、自分の目で見て歩いて、その歴史を体感することが一番です。歴史が与えた概念をゆるやかに混じり合わせてきた街は、私たちにどんな姿を見せてくれるのでしょう。
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文 / 編集部 写真 / Kato Tatsuya
アジアとヨーロッパの架け橋、ボスポラス海峡
朝もやの中、船が航海するのはイスタンブールをヨーロッパ側とアジア側に隔てるボスポラス海峡。古来より周辺の海峡とともに、地中海と黒海を結ぶ海上交通の要所として重要な役割を担ってきた場所です。両岸には街の影が浮かび上がり、朝日が闇を溶かすように少しずつその姿を見せ始めます。モスクのドーム、そびえ立つミナレット(尖塔)――迫りくる異国の雰囲気の中、「今日はここでどんな景色や人びとに出会えるんだろう」そんな想いに駆られます。やがて目覚めた街からはイスラム教の礼拝時間を告げるアザーンが聞こえ、船はその懐に抱かれるように港へと入っていきます。
イスタンブールの歴史を象徴する場所へ
異国情緒に背中を押され、はやる気持ちでさっそく街へと出かけます。訪れたのはユネスコの世界遺産にも登録されている旧市街の歴史地区。船から仰ぎ見た6本のミナレットが建つスルタンアフメット・ジャミイ(通称ブルーモスク)が優美な外観で迎えてくれます。モスクの内部には、大小のドームを中心とした大空間が広がります。ブルーを基調としたイズニック・タイルが張りめぐらされ、緻密な美しさに思わずため息がもれます。壁や天井に施されたモザイク画、光をたたえるステンドグラス、世界一美しいといわれる所以を感じます。
その向かい建つのは、ビザンチン建築の最高傑作と評されるアヤソフィア博物館です。この博物館は15世紀まではキリスト教の聖堂として使われていましたが、オスマン帝国時代にはモスクに改修され、現在はふたつの宗教の美が結集した貴重な博物館として、その数奇な歴史と荘厳な姿を今に伝えています。 「街は歴史を語る」、イスタンブールはその言葉どおりの街なのです。街を一望できるガラタ塔からボスポラス海峡を眺めると、文化のグラデーションがより見てとれます。この街にある数々の歴史ロマンを感じます。
「世界中から物が集まってくる」活気あふれる巨大バザール
異国の雰囲気の中では物欲はいつも前のめり!お次は同じく旧市街にあるグランド・バザールでお土産ものを探します。約4,000店がひしめきあう巨大市場、エスニックな色とりどりの雑貨は見ているだけでワクワクしてきます。カラフルなガラス製ランプひとつとっても、混ざり合う色合いは、まるでこの街の多様な文化を表現しているかのように感じられます。これはあの人に……、もちろん自分にも……、宝物を探す気分で歩き回っていると、どこからか美味しそうな匂いがしてきました。
匂いの正体は、多種多様な屋台グルメ!世界三大料理のひとつといわれるトルコ料理は東西各国の調理法や香辛料を活かした豊かな味わいが特徴で、日本でもおなじみのケバブから食べ歩きのできるスナックまで興味をそそるものばかりです。市場には、小麦粉で作った薄い生地に具材をはさんで焼いたトルコ風パイ「ポレキ」や、炭火で香ばしく焼いたサバとトマトや玉ねぎをバゲットに挟んで食べる名物「サバサンド」など、さまざまな絶品グルメが目白押しです。ちょっとドキドキしながらも異国の味をパクリ。その瞬間「旅をしてる!」そんな気持ちになります。
かつての船乗りたちに、自らの旅を重ねて
見どころ満載の街、イスタンブール。つい駆け足で回りがちですが、歴史的な遺産を眺めるだけではもったいない。例えば、地元の人でにぎわうチャイハネ(トルコ風喫茶店)で名物のチャイを飲みながら街の往来を眺めてみる。異国の景色の中に自分がいるというだけで、その街にまた一歩近づいたような気がします。それでも時間は有限、名残惜しさを胸に船へと戻り、今度は海上から街を眺めます。暮れていく街に灯りがともると、宮殿やモスクの輪郭が幻想的に浮かび上がります。心地よい夜風に包まれながら、多くの船乗りたちがたどった東西の交差点を経て次なる港へ――海と海をつなぐ旅は続きます。
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