クルーズコレクション

戦火の中東を間近にモーリシャスへ

Voyage Talk -旅人が綴る風景- 高瀬毅

ジャーナリスト・ノンフィクション作家の高瀬毅さんは、2006年出航の第54回クルーズから、水先案内人としてピースボートクルーズに乗船いただいています。
20年にわたり見届けてきたピースボートクルーズの歩みや、世界各地を訪れながら見つめてきた国際情勢や社会の変化とは――。
特別レポートとして、全5回の連載でお届けします。

高瀬毅 / ジャーナリスト・ノンフィクション作家
長崎市生まれ。被爆二世。元ニッポン放送記者。ラジオドキュメンタリー『通り魔の恐怖』で日本民間放送連盟賞最優秀賞。ラジオ・TVのナビゲーター、コメンテーター、雑誌『AERA』の「現代の肖像」で40人の著名人を取材。著書に平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞を受賞した『ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」』(平凡社・文春文庫)など多数。2025年『「ナガサキ」を生きる──原爆と向き合う人生』(亜紀書房)を上梓。
YouTube「デモクラシータイムス」で政治問題を中心に発信

Social Good Photography, Inc.

アフリカの東、マダガスカル島の東海上。世界が一覧できるような地図では、芥子粒のようにしか見えないマスカレン諸島にモーリシャス共和国がある。国際NGOピースボートの水先案内人としてVoyage122(2025年12月出航)に乗船するのは、2026年3月12日。東京を3月10日に立ち、3月11日にモーリシャスの首都ポートルイスに入る。翌日、パシフィック・ワールド号と合流するというスケジュールだった。経由地は中東のアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ。ドバイ国際空港は世界のハブ空港。トランジットとはいえ降り立つのを楽しみにしていた。だが、予想もしないことが起きた!

米国とイスラエルによるイラン攻撃だ。イランの核開発の脅威が理由だが、それは表向き。イランのウラン濃縮率は核兵器を造れるレベルに達していない。真の狙いはイランの体制転覆にある。これに対してイランが報復攻撃を始めた。中東各国の米軍基地をまず狙ってミサイル攻撃。製油所やLNG=液化天然ガス精錬施設も標的にされた。さらにはドバイ国際空港にも被害が出たとの一報がSNSで流れた。空港までやられたのか。世界の空路の要衝にまで戦火が及ぶとは思わなかった。

空港ロビーに煙が立ち込めている。割れたガラスが床に散乱。利用客が混乱の中で、飛行機の離発着変更や欠航の知らせに、どうしていいか分からない様子。これは大変だ。モーリシャス行きのルート変更を余儀なくされるとすぐに直観した。チケットの変更はピースボートがやってくれるので助かるが、新ルートはどうなるのだろう。気を揉みながらニュースをフォローしつづけた。ピースボートから連絡が入った。羽田発、パリ経由でモーリシャスへの便が取れたとのこと。エアラインはエールフランス(AF)。

地球一周クルーズ。それを年に3回。そんなことができるのはピースボートならではだろう。ただ、世界は広く、多様なだけに、常に予想もしなかったことが起きる。今回のこともそうだ。でもそれを含めての旅である。旅人は常に試される。搭乗したAF281便は、3月10日午前9時半、羽田を離陸。一路パリを目指した。この機はどういうコースをたどるのだろう。座席前のモニター画面で航路を確認すると、ひたすら北上している。やがてロシアのカムチャツカ半島が見えてきた。AF機は、その東側を半島に沿って飛行し続けた。

カムチャツカに沿って北上するコースは海外旅行では初めてだ。国際線の飛行ルートは常に国際政治に翻弄される。初の海外は1980年。成田からローマへ。その時のコースは、米アラスカ州アンカレッジ経由で18時間もかかった。当時、米ソ冷戦期。西側陣営で米国の同盟国の日本の旅客機は、ソ連上空を飛べなかったのだ。とにかく遠かった。ローマに着いた時には時差ぼけでフラフラ。アンカレッジの空港には日本人向けのうどん屋があった。欧州に最も早くいくにはそのコースしかなく、うどん屋はその象徴のようなものだった。

Yoshida Taisuke

1991年ソ連が崩壊。共産主義陣営の最大国家が消え、ロシアとなり、日本-欧州ラインはロシア上空を飛べることになった。同年、北欧・デンマークのコペンハーゲンには約10時間で行った。ロンドンもパリも一気に近くなった。ベルリンの壁が撤去され東西両ドイツも統一。雪解け、緊張緩和の空気が世界に広がった。1992年には、米国の政治学者、フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』が出版され、世界的ベストセラーとなった自由民主主義が支配する世界になり、政治的、イデオロギー的発展は終わりを告げたと語っていた。

世界の思潮は振り子のように振れ、潮の満ち引きのように寄せては返す。歴史もまた物理学なのだと思う。ロシアのウクライナ侵攻によって、ふたたびロシア上空を飛べなくなった。この30数年間で融和から緊張へと変わった日本や世界、歴史の変遷に我が事を重ね合わせ、想いに耽っていると、搭乗機は北極海からグリーンランド上空へ。ここもいま食指を伸ばす米国に狙われている。温暖化が、地球のてっぺんの氷も溶かし、米ロの安全保障にも影響を与える時代になったという。その大地の上を初めて超えた。

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真下はスコットランドだろうか。やがてドーバーを越え、やっとパリへ。日本から15時間。休む間もなく2時間のトランジットでモーリシャスへ。地中海を越え、アラビア半島とアフリカの間にある紅海に沿い南下。サイの角のような形をしたソマリア上空を通過してインド洋へ。戦火の中東は目と鼻の先である。複雑な気持ちだ。やがてパリから11時間。モーリシャスの首都ポートルイスにタッチダウン。地球は広い。大きい。空港から今日宿泊予定のホテルへ向かう道すがらの風景は、南国特有の植栽にあふれている。緑がまぶしい。

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