クルーズコレクション

四角大輔さん(作家、環境保護アンバサダー)特別レポート6

「俺が知る世界も、俺の経験もちっぽけだ。息子よ、俺にもっと広い世界を見せてくれ」-6-

大海原を眺めながら迎える静かな朝、世界地図を囲んで交わす親子の会話、家族でゆっくり囲む食卓――。旅のなかで見つけたのは、遠い世界への冒険だけではありませんでした。忙しい日常では見過ごしがちな、家族と過ごすかけがえのない時間。その豊かさを、四角大輔さんの言葉とともにお届けします

四角大輔 / 作家・森の生活者・環境保護アンバサダー
レコード会社プロデューサーとして活躍し、その後ニュージーランド湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営み、場所・時間・お金に縛られず、組織や制度に依存しない生き方を構築。Greenpeace JapanとFairtrade Japanの日本人初アンバサダー、環境省アンバサダーを務める。著書に『超ミニマル・ライフ』『超ミニマル主義』『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』『人生やらなくていいリスト』など多数。
公式ホームページ https://daisukeyosumi.com/

Social Good Photography, Inc.

家族で過ごす〝奇跡の朝〟

船上の朝は、驚くほど静かだ。聞こえるのは、波が船体をなでる音だけ。どこまでも広がる海。街の朝の喧騒も、慌ただしい足音もない。誰にも邪魔されないこの時間に、ぼくは、一番大切なものを取り戻している気がする。 毎朝、同じ時間に目が覚める。アラームじゃなく——空と海からそっと差し込む朝陽に、心と体がゆっくり呼応していく、そんな静かな目覚めだ。ぼくは起きてすぐ、大海原が迫るバルコニーに出て、全身で光を浴びる。 そして、深呼吸。ゆっくりと目を閉じ、まず息を大きく吐き切る——あばら骨が少しきしむくらいに。次に、深く大きく吸う——朝の大気を背中に入れるつもりで肺をふくらませて。これはニュージーランドの湖畔の家でのモーニングルーティンでもあるけれど、船の上でやるとまた格別だ。

Yosumi Daisuke

旅がくれる、〝感じる〟の密度

「だいちゃん、次はどこに行くの?」 息子がそう聞いてくる。部屋の壁に貼った世界地図を指さし、「今はここで、次はここに行くんだよ」と、その距離感と、その国について伝える。たったそれだけの会話なのに、地図を見つめる彼の眼差しは真剣だ。そこに、この広い世界はどう映っているのだろうか。 船では、寄港地についてスタッフが説明してくれる時間もあり、その土地の歴史や文化、見どころを事前に知ることができる。隣の国なのに、まったく違う生活様式。そんな話を聞きながら息子と地図を眺めていると、ぼくの語彙力は小学生レベルになる。人生で数多くの国を旅してきたのに——「世界はまだまだ広いぞ」と感嘆してしまう。 彼にとって、この世界一周は人生最長の旅だ。ここで得る〝感じる〟の密度は、おそらく幼稚園や学校の数年分はあるだろう。教科書の冊数ではカウントできないほどの体験知を、彼は手にしている。地理も、言語も、文化も、すべてが本や画面の向こうではなく、目の前のリアルとして——記憶じゃなく——体に刻まれていく。ひとつとして同じ風景がない港町、初めて耳にする言葉、異国の不思議な香り。そんな一つひとつが、世界への認知を少しずつ深め、彼の一部となっていくのだろう。

Mizumoto Shunya

そして、この船旅には子どもたちのための特別な場所もある。「ピースボート子どもの家」だ。モンテッソーリ教育をベースにした環境で、資格を持つ保育士も乗船しており、安心して子どもを預けることができる。 子どもが「子どもの家」で遊び、学んでいる間は、親だって遊び、学べる。船内講座やイベントに参加したり、サウナやジムで汗をかいたり、プールとジャグジーでのんびりしたり、やれることは無数だ。船上生活は、とにかく自由なのだ。

Yoshida Taisuke

ゆっくり朝を過ごすという贅沢

船のレストランでの朝食も、ぼくにとって小さな楽しみのひとつ。その日の気分によって和食だったり洋食だったり、無国籍料理を選ぶ。旅を続けながら、毎朝違う料理に出会うのも船旅の面白さだ。とはいえ、旅館の朝食のような和食が好きで、ほぼそこに通っていたけれど(笑)。 特別な会話をしているわけではない。特別なこともしない。ただ同じ空間で同じ時間を共有している。それだけで心が満たされていく——「これこそが本来、家族にとってもっとも幸せな時間なんだな」と。そんな当たり前のことを気づかせてくれるのも船旅のいいところ。陸に戻っても忘れないようにしよう。そんな、ささやかな心のメモが増えていく。 縛られない働き方をしているとはいえ、ニュージーランドにいる時は、食料確保のための畑仕事や魚釣りはあるし、息子の身支度など、一日が慌ただしく過ぎていく。今ここで、朝の海を眺めながら家族三人で同じテーブルを囲み、ゆっくり食事をする何気ない時間こそが、一生忘れられない体験になるのかもしれない。 当ブログを読んでくれている人の中にも、急いで支度をし、仕事や約束に間に合うべく忙しく家を出る人がいるだろう。子どもが起きる前に出勤したり、ほんの数分だけ顔を合わせたり——そんな朝を過ごしている人もいるのではないだろうか。

Yosumi Daisuke

そんな朝を取り戻せるのが、この船旅の醍醐味のひとつだと思う。観光地を急いでめぐる旅とは違い、海の上でゆっくり流れる時間の中で余白が生まれ、それが家族とのかけがえのない宝になる。地球一周という大冒険をしているはずなのに、誰もが忘れがちな、日常の小さな幸せを見逃さず、すくい取れるようになる。 陸では知らぬ間に遠ざかっていた——一番近くにいる家族との距離が——少しずつ縮まっていく。そして、陸上では築けないような絆が、静かに生まれていく。忙しい毎日を送っている人こそ、この旅を一度体験してみてほしい。世界を一周する体験以上に、家族とゆっくり朝を過ごす時間が、人生の宝物になると断言できる。

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