クルーズコレクション

四角大輔さん(作家、環境保護アンバサダー)特別レポート8

「俺が知る世界も、俺の経験もちっぽけだ。息子よ、俺にもっと広い世界を見せてくれ」-8-

107日間かけて地球を一周した四角大輔さん。けれど、旅はここで終わりではありませんでした。船上で出会った景色や人、ゆっくりと流れる時間は、日常のなかで新たな意味を持ちはじめます。世界一周の旅を終えた今だからこそ見えてきた、〝旅の続き〟は日常のなかにありました。

四角大輔 / 作家・森の生活者・環境保護アンバサダー
レコード会社プロデューサーとして活躍し、その後ニュージーランド湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営み、場所・時間・お金に縛られず、組織や制度に依存しない生き方を構築。Greenpeace JapanとFairtrade Japanの日本人初アンバサダー、環境省アンバサダーを務める。著書に『超ミニマル・ライフ』『超ミニマル主義』『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』『人生やらなくていいリスト』など多数。
公式ホームページ https://daisukeyosumi.com/

Social Good Photography, Inc

帰国して気づく〝旅の続き〟は日常にあった ほんの数日前まで、ぼくたち家族は船の上で暮らしていた。3ヶ月半も前に横浜港を出て、時に北上したり南下しながら、ひたすら西へ西へと海をわたり、地球をぐるり一周して107日ぶりに横浜港へ戻ってきた。そして今、ニュージーランドへ帰る前に、日本に1ヶ月ほど滞在している。 不思議なもので、同じ空、同じ街、同じ東京の拠点に戻ってきたはずなのに、何もかもが少し違うように感じる。静かだと思っていた拠点の周辺が騒がしく思えたり、近所の小道が以前よりも少し広く見えたりする。スーパーの商品の異常な多さにたじろぎ、速足で歩く人びとの流れに圧倒される。 もちろん、日本の便利さや正確さ、清潔さや安全さはありがたい。途上国から先進国まで、数多くの都市を回ったあとだからこそ、日本の素晴らしさを痛感する。けれど、船上での「少し不便で、ゆっくりした日々」に慣れた身体には、この社会の過剰さとスピードが、苦しく感じられてしまう。

Yosumi Daisuke

海の上では、時間の流れがまるで違っていた。なにも急ぐ必要がない。目的地を目指して車を運転する必要も、慌ててホテルを予約する必要も、ましてや船を漕ぐ必要もない(笑)。ただただ、朝起きてすぐ海を眺め、食事をしながら海を眺め、ラップトップで執筆しながら海を眺め、ワインを飲みながら海を眺め、そして海を眺めた後また眠る。 もちろん、やれること、やりたいことはたくさんある。船内イベントは楽しく、ゲストによる講演は深く学べるから、あれこれと顔を出したい。ぼく自身も登壇するし、そのスライドづくりに夢中になっているとあっという間に時間がすぎる。プール、スポーツデッキ、サウナ、ジャグジー、ジムと、いくらでも体を動かせる。船で出会った仲間たちといつまでも語り合いたい。 とはいえ船の上では、いわゆる「コスパ」や「タイパ」という言葉が意味をなさない。何もしない時間、ただ海を眺める時間、家族と仲間とゆっくり話す時間。そういう時間で、一日ができていた。

Yosumi Daisuke

本当の旅が始まるのは帰ってきてから

「旅先での感動は、その場所に置いてきてしまうものだ」——その昔、誰かが言っていた。旅には、そういうところもあるのはよくわかる。でも、ぼくはこう思っている——旅での体験は〝非日常の出来事〟として終わるわけではなく、日常の中に静かに入り込み、ものの見方や時間の感じ方を少しずつ変えていく。 2017年に出した共著『The Journey 自分の生き方をつくる原体験の旅』に、こんなことを書いたのを思い出した。 「旅に大小も優劣もない。どこへ行ったか、何をしたかも、重要ではない。そこで何を感じたか、体がどれほど震えたか。それがもっとも大切なんだ。

そして——その「原体験の旅」が人生で意味を持つようになるのは、旅から帰ってきてから。旅に行くだけで突然、人生が変わったりするわけではない。その体験をどう受け止め、どう解釈するか。そこで得たことを、生き方にどう反映させていくか。それに尽きるんだ、と。」 9年前に自分で書いたことが、いま、そのまま自分に返ってきている。 旅の記憶は、スマホのアルバムのように整然と順番に並んでいるわけではない。むしろ、日常の風景の隙間にふっと顔を出す。

日常が、小さな旅になる

繰り返し伝えたいのは、地球一周の船旅というのは、単なる「移動」ではないということ。短い滞在を繰り返しながら、次の目的地へと急ぐ飛行機による世界一周の旅とは違い——船旅は、海の上で過ごす時間そのものが旅の醍醐味であり、生活そのものということ。 船内では世界中から集まった人たちと出会い、語り合い、学び合う。講演やイベント、文化交流、音楽やダンス、運動会や小さなセミナーなど、多種多様で無数ともいえるプログラムが用意されている(ぼくも水先案内人として、結局20回近くも登壇させてもらった!)。そして何より、いつも目の前に広がる海の青さが、心を深く癒してくれる。

Yosumi Daisuke

寄港地に着けば、新しい街、新しい文化との出会いに歓喜する。船に戻れば、また海の静寂タイムが待っている。この「動」と「静」のリズムこそが、ピースボートの大きな魅力なのだ。 地球を一周するような大きな旅をしたからこそ、今目の前の日常にある〝小さな旅〟のありがたみに気づけるようになった。いつもと違う場所で、家族でごはんを食べること。息子と手をつないで歩くこと。そんなちょっとした時間が、以前よりも鮮やかに感じられる。 人類の祖先はその昔、東アフリカから旅立ち、そこから世界中に散らばって今日に至る。旅が文明をつくり、旅は人類の生存本能ともいえる。だからきっと、旅によって新しいなにかが生まれるのではない。もともと自分の中にあったものが、目を覚ますだけなのだろう。

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