四角大輔さん(作家、環境保護アンバサダー)特別レポート9
船を降りても、旅は終わらない。世界一周の旅の途中で「離脱」という選択をした四角大輔さん一家は、フランスで新たな景色や文化に出会い、再び船へと戻りました。そして旅を終えた今、息子さんの中に残る小さな記憶や好奇心に触れながら、旅が人の中に残すものについて考えます。
四角大輔 / 作家・森の生活者・環境保護アンバサダー
レコード会社プロデューサーとして活躍し、その後ニュージーランド湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営み、場所・時間・お金に縛られず、組織や制度に依存しない生き方を構築。Greenpeace JapanとFairtrade Japanの日本人初アンバサダー、環境省アンバサダーを務める。著書に『超ミニマル・ライフ』『超ミニマル主義』『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』『人生やらなくていいリスト』など多数。
公式ホームページ https://daisukeyosumi.com/
船を降りて、また乗る——「離脱」という選択肢
地球一周の旅の途中、家族でちょっとした寄り道をした。フランスへの「離脱」の旅だ。「離脱」とはピースボート用語で、一時下船して陸路や空路で独自の旅をした後、再び乗船するスタイルの旅のこと。ぼくら家族は、モーリシャスで下船して、カナリア諸島のテネリフェ島で再び乗船した。 フランスでは、ぼくが京都の次に愛する古都パリと、南仏のマントンに滞在した。イタリアとの国境に面する小さな港街マントンは、日本ではあまり知られていない。中世からの街並みが山の斜面に連なり、青く澄んだ地中海を見下ろす。そのカラフルな石の壁が圧巻だ。
パリでは、ぼくの本にオファーをくれた出版社と顔合わせや打ち合せを重ねた。列車でロンドンに渡り、英国の出版社との契約書にサインもした。そう、今回の「離脱」は、ぼくの仕事のためでもあったのだ。 世界一周クルーズは、ただ船に乗るだけだと思われがちだが、寄港地ごとにツアーを選べたり、事前申請すれば「離脱」して、自分たちの旅をカスタマイズすることもできる。ぼくのように出張をからめることもできる(まあ、仕事のために離脱する人はほぼいないが)。
息子の中で続く旅
帰国してから、予定を入れるとき、誰かと会うとき、新しい仕事を受けるとき——「それは自分の命(=時間)を使う価値があるか」と、以前よりさらに真剣に自問するようになった。自分の命の使い方を、もう一度考え直すようになったのだ。 そして、この旅は息子の中でも、きっと育っていく。おそらく長い年月をかけて。 ときどき息子が「ラッコかわいかったね」「シンガポールのすごい匂いの果物なんだっけ?」「公園にリスがいたのはカナダ?」と話すのを聞くと、旅はちゃんと彼の中に残っているのだなと感じる。まだ4歳の彼にとって、それははっきりした記憶ではないかもしれない——もちろん、それでいい。
世界には知らない場所がたくさんあって驚いたこと、見た目が違い言葉が通じなくても笑顔でつながれて嬉しかったこと——そんなシンプルな感覚を、きっと身体で感じ取ったことだろう。海の向こうのまだ見ぬ土地への好奇心、初めての土地へ足を下ろすときのドキドキ——そういうものが、彼の身体のどこかに残っているだろう。 もし、そんな小さな「熱源」が彼の中に残っていたら、それだけでこの旅は価値があったと言える。いや実は、彼のその「熱源」は、生まれてからずっとフル稼働していて、それがさらに強い熱を放っているだけなのかもしれない。人は誰もが本来、その「熱源」を持って生まれてくるのに、大人になるにつれ冷めていき、いつの間にか消えてしまうかもしれない。
その熱を冷ますもの
そして陸での日常には——誰かと比べられたり、自分で答えを見つける前に教えられたり、毎日が予定で埋め尽くされたり——子どもの「熱源」を冷ますものが無数に立ちはだかる。だがその最たるものは、スクリーンではないだろうか。スクリーンを見つめる子どもの目つきも表情も死んだようで、意識と脳がハッキングされ、その「熱源」は消えている。 息子が生まれてから何度も、パパ・ママ先輩たちに「子どもが巣立つまでの期間はあっという間に終わるからね。一緒の時間を大切にね」と言われてきた。それは自分でもわかっていたから、その言葉を胸に息子と向き合ってきた。
しかし、超デジタル化された社会においては、「親子で一緒に過ごす尊い時間」さえも、スクリーンが無慈悲に消し去っていく。一番の悲劇は——部屋に一緒にいながらにして——スマホやタブレットやテレビと、家族みんなが別々のスクリーンに意識を奪われている状態だろう。これは現代の病理といえるかもしれないが、リアルな現実でもある。 もちろん我が家なりの、息子を守るための方策はとっている。たとえば、日常的にスクリーンを見せることは一切やらない。まだ数年はきっと大丈夫——だが、何歳までスマホを渡さずに粘れるか、この先どうやってスクリーン毒から守れるか、と考えると気が重くなってしまう。
旅は人生を変えるのか
人生を変えるのは、大きな決断や出来事だけではない。休日どう過ごすか、誰といると楽しいか、愛することは何か——そんな、日常のささやかな選択の積み重ねで、人生は静かに方向を変えていく。 旅をしたことで再加熱する「熱源」が、その基準を少しだけ動かしてくれる。世界を一周したからといって、突然人生が劇的に変わるわけではない。けれど、物事を見る角度、行動の形がほんの少し変わる。そしてその小さな変化が、これからの働き方や暮らし方を、いい方向へ導いていく。 旅とは——「熱源」の再熱によって、あとからじっくり効いてくるものなのだ。だから焦らず、ゆっくり咀嚼(そしゃく)しながら、あの体験を自分に染み込ませていけばいい。きっと息子は一生かけて——あの旅を、身体の一部、人生の一部、DNAの一部にしていくことだろう。
この記事に関連する記事
この記事を読んだ方へのおすすめクルーズ
-
14247view
-
10335view
-
9718view
この記事に関連する記事
この記事を読んだ方への
おすすめクルーズ
パンフレットをお届け!
今資料請求をいただいた皆さまには、世界一周クルーズがもっと楽しみになる情報が満載のパンフレットをお送りします。この機会にぜひ資料をご請求ください。