クルーズコレクション

海を渡ったじゃがいも、山で出会ったじゃがいも

Voyage Talk -旅人が綴る風景-岡根谷実里

世界各地の家庭の台所に立ち、その土地の日常の食から暮らしや社会を見つめてきた「世界の台所探検家」岡根谷実里さんが訪れたのは、じゃがいもの原産地として知られるペルー。美食の国としても知られるこの国で出会ったのは、色も形もさまざまなじゃがいもと、それを育て、食べ、保存してきた人びとの知恵でした。標高4,000メートルの畑を舞台に、じゃがいもから見えてくるペルーの食文化をひもときます。

岡根谷実里 / 世界の台所探検家
東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、クックパッド株式会社に勤務し、独立。世界各地の家庭の台所を訪れて一緒に料理をし、料理を通して見える暮らしや社会の様子を発信している。40以上の国と地域、190以上の家庭を訪問。講演・執筆・研究などを行う。著書に『世界の食卓から社会が見える』(大和書房)、『世界のお弁当とソトごはん』(三才ブックス)、『世界の台所の間取り』(エクスナレッジ)など。京都芸術大学客員講師。探検の傍ら、現在はオランダの大学で文化人類学の研究を行う。

岡根谷実里

つばの広い帽子をかぶったおじさんが畑に鍬を入れると、じゃがいもがゴロゴロと転がり出てきた。見慣れた黄色いものの他に、赤いもの、黒いもの。形もつるんとしたものから、ゴツゴツしたものまで。一体何種類あるんだろうか。私は、渡された鮮やかな色の織布を地面に広げ、6歳の女の子と二人一組でじゃがいもを拾い集め始めた。 いっぱいになったら布の端を寄せて担ぎ、畑の隅にできたじゃがいもの山にざざっとあける。単純作業だが、ここは富士山頂よりも高い標高4,000メートルなので酸素が薄く、ちょっと動くだけですぐに息が上がる。畑で作業する10人ほどの親戚たちは皆慣れているようで平気な顔だけれど、私はすぐ疲れるし、腰が痛くなってきた。数時間続けて、もう動けない!と思った頃、「お昼にしようか」と言われて救われた。

岡根谷実里

畑の隅に皆で座り、土焼きじゃがいも「ワティア」を食べる。皆がいも掘り作業をしている間に母さん格の人が仕込んでおいてくれたものだ。小山にした土に火を入れて熱し、掘ったばかりのじゃがいもを埋めて蒸し焼きにする。再びあつあつの山から掘り出されたじゃがいもは、のどが詰まりそうなくらい水分が少なく、ぎゅっとしていて、うまみが強い。ひとつ食べるにも時間がかかり、数個食べたら大満足。腹の底から力が湧いてきて、午後も日が暮れるまでいもを掘り続けた。 帰宅したら残り物のじゃがいもを食べ、翌朝はじゃがいもスープを食べてじゃがいも畑に向かう。じゃがいもまみれの日々だった。

岡根谷実里

ペルーを訪れたのは、美食の国だという評判をあちこちで聞くようになったからだった。まるでケーキのような見た目のポテトサラダ「カウサ・リメーニャ(カウサ・レジェーナとも)」に、新鮮な生の魚介類をライム果汁や唐辛子でマリネした「セビーチェ」。ペルー料理といえば味も見た目も洗練されているイメージだった。しかし私が知っているのはレストラン料理だけ。家庭ではどんな料理をつくっているのだろうと興味が膨らんで、ペルー行きを決めた。 それが、まさか朝から晩までじゃがいも畑で働き、連日じゃがいもばかりを食べる生活になるとは思いもしなかった。

岡根谷実里

なんでこんなことになったのか、その理由は地域区分にある。ペルーは大きく三つの地域に分けられ、太平洋に面した海沿い地域(コスタ)、その東に位置するアンデス山脈の高地(シエラ)、さらに東の内陸に入ったアマゾン(セルバ)で気候がまったく異なり、ゆえに食も異なるのだ。ペルーの有名料理の多くはコスタのもので、この地域は首都リマがあって食材が集まるし、海沿いなので移民や他文化の影響を受けて食文化が発展した。私が訪れたアンデス山脈の村はシエラで、世界遺産のマチュピチュと同じ地域だ。標高が高いゆえに農業はじゃがいもやとうもろこしなどに限られ、体の温まるスープなど素朴な料理が多い。私が訪れたのは、そもそもじゃがいも地域だったのだ。

岡根谷実里

しかし、じゃがいもはじゃがいもで奥深い。たとえば、保存法。10年も持つというじゃがいも保存食がある。 収穫作業を終えた父さんは、あたりが薄暗くなりゆく中、じゃがいもを詰めた15キロほどの袋をロバの背に乗せて村の教会前の広場に向かった。そして着くなり袋の口を開け、じゃがいもを地面にばらまき始めたではないか。「今夜はよく冷えそうだ」と空を見上げながら、静かな笑顔をたたえて。

岡根谷実里

そして翌朝、早朝の畑作業を終えた帰り道、広場に立ち寄りイモの様子をチェック。ふたつ拾って打ち付けて、よく凍っているのを確認したら、袋に回収。家に運んで、今度は家の前の広場にばらまいた。日が昇ると、じゃがいもが汗をかくように溶け始めた。「教会前の広場は、村で一番冷える地点なんだ」と彼は言う。たった100メートルほどの距離だが、確かに空気が違った。 完全に解凍されたじゃがいもは、足で踏むとスポンジのようにつぶれて水分がじゅわっと出た。皮をむいて天日干しすると2週間ほどでカチカチの石のようになる。これが「チューニョ」という保存食で、適切に保存すれば10年も持つという。食べる時は、水に戻してスープなどにする。 じゃがいもは冷凍してはいけない野菜だと教わってきた私にとって、この加工法は非常に混乱するものだったが、地形と天気を読み、不作に備えて食べ物を保存する知恵には恐れ入った。

岡根谷実里

チューニョのスープは主にアンデス山脈(シエラ)で食されるが、コスタでも楽しめるじゃがいも料理も豊富にある。有名なのは、ケーキのように美しい「カウサ・リメーニャ」、マッシュポテトでひき肉を包んで揚げた「パパ・レジェーナ」、ゆでたじゃがいもに唐辛子とチーズのクリーミーなソースをかけた「パパ・ア・ラ・ワンカイーナ」など。じゃがいも自体の濃い味わいが楽しめるはずだ。クルーズでペルーに寄港したら、ぜひ味わってみてほしい。また、運がよければ市場でチューニョに出会えるかもしれない。

岡根谷実里

ペルーは、じゃがいもの原産地だ。インカ帝国の時代から重要な食物で、大航海時代にヨーロッパに渡り、オランダ船などにより東南アジアを経由する形で日本にもたらされた。空ではなく海の交易だったわけだから、まさに世界一周の船旅だ。そんな歴史に自らの旅を重ねながら、ペルーでじゃがいも料理を食べるのは、船旅ならではの体験かもしれない。

今だけ!旅の魅力が詰まった
パンフレットをお届け!

今資料請求をいただいた皆さまには、世界一周クルーズがもっと楽しみになる情報が満載のパンフレットをお送りします。この機会にぜひ資料をご請求ください。

TOP