謎多き古代アンデスの大地に魅せられて
砂漠から熱帯の密林、高地まで、さまざまな大自然を擁する南米・アンデス地方。紀元前3,000年頃から人びとの定住が始まったといわれており、変化に富んだ自然環境を利用しながら、個性豊かないくつもの文化が古代から花開いてきました。そんな古代アンデス文明の歴史を、ペルー・リマにある「天野博物館」事務局長の阪根博さんに伺いました。
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◆阪根博さん
早稲田大学教育学部卒業。現在はペルー・リマに在住。リマにある「天野博物館(祖父の故・天野芳太郎さんが設立)」の事務局長を務め、ペルーの文化研究科、土器・織物の収集・研究家として発掘作業、博物館の運営に携わる。
文・構成 / 編集部 写真 / 桃井和馬
アンデス文明のはじまり
これまでアンデス文明の始まりは、紀元前1,000年頃に発達した「チャビン文明」だといわれていましたが、近年、新たに階段ピラミッド状の神殿跡や古代都市が発見され、その定説は覆されつつあります。
これまで旧大陸(※)で文明が起こった後に、アメリカ大陸での文明が始まった、と考えられていましたが、この新たな発見によって、旧大陸と新大陸はほぼ同時期に、まったく別々の土地に暮らす人間たちが似たような文明を築き始めた、ということが証明されたのです。
※旧大陸:ヨーロッパ、アフリカ、アジアなど、コロンブスによるアメリカ大陸到達以前にヨーロッパの人びとに存在が知られていた地域
世界最古のフリーズドライ製法
アンデス文明を語る上で外せないものが「ジャガイモ」です。私たちが普段食べているジャガイモの多くは、アンデス山脈が原産です。 エジプト文明やインダス文明などの古代文明は、大きな川のほとりで穀類を作ったことから文明が発展していきました。保存ができる穀類に対して、ジャガイモは腐ってしまい、蓄えられないことから「イモでは高度な文明は作られない」とまでいわれていました。しかし、アンデス特有の昼夜の寒暖差を利用して、水分を絞り出し、天日干しを繰り返すことでフリーズドライさせて、ジャガイモを保存できる技術を編み出しました。これにより、貯蓄が可能となり、どんどん文明が発展していったわけです。
神秘とミステリーに包まれた文明の数々
リマの南東約440キロメートル、アンデス山脈と太平洋に挟まれたナスカの大地には、数々の巨大な地上絵が描かれています。セスナ機に乗り込み、地上絵の上空へ。荒涼とした大地に複雑な砂の紋様が広がる、ナスカ一帯の風景も大きな見どころです。
雄大な風景に見惚れていると、サルやコンドル、クモ、ハチドリ、はたまた宇宙人や幾何学模様など、古代人の描いたアート作品が次々と姿を現します。その巨大さと精巧さには、目を見張るばかり。「天文説」や「儀式説」、「雨乞い説」など、描かれた目的には諸説ありますが、その理由に思いを馳せると、より印象が深まることでしょう。
【追記:「ナスカの地上絵」新たに168点発見】
ピースボートクルーズでも人気の訪問先のひとつであり、また記事内でも紹介をした「ナスカの地上絵」について、新たに168点が発見されたとのニュースが、2022年12月8日に発表されました。現地調査を続けている山形大学の研究グループによると、今回発見された地上絵は、人間やラクダ、鳥、シャチなどを模していて、うち36点はナスカ市街地のすぐ近くにあるアハ地区で見つかりました。新たな歴史を刻みだしたペルー。2023年12月にはピースボート地球一周の船旅の船旅もそのペルー・カヤオへ寄港します。
インカの言葉ケチュア語で「へそ」を意味し、マチュピチュ観光の玄関口としても有名なクスコの街は、インカ帝国時代の首都で街全体が世界遺産に登録されています。インカ時代の叡智の結晶ともいえる卓越した石造技術は、征服者のスペイン人たちも驚愕したほど。クスコ制圧後に新たに西洋様式の街を築いた際にも、教会などの基礎部分にはインカ時代の精巧な石組みを利用しました。 その技術の高さを物語るスポットが、「12角の石」と呼ばれる石垣の礎石です。”カミソリ1枚通さない”と称される精巧な石組みは、なぜ、どのように築かれたのか――その理由は多くの謎に包まれています。
マチュピチュ遺跡
アンデスの山中を分け入った先にあり、空からしか遺跡の存在を確認できないことから「空中都市」と呼ばれるマチュピチュ。遺跡は神殿と居住区で構成されており、斜面には段々畑が広がっています。
深い山中に分け入った先に石造りの遺跡が現れる壮大な景観はもちろんのこと、その都市機能や石組みの精巧さ、技術力には圧倒されるばかり。暮らしに取り込まれた自然の摂理や、それを可能にした高度な技術を随所に見ることができます。
ぜひ、神秘とロマンに満ちた素晴らしい景色をその目で確かめるとともに、マチュピチュの風を感じ、ここに暮らしていた人びとを思い浮かべてみてください。
さらなるロマンをかき立てる、謎に満ちた文明
紀元前に建造されたピラミッド、ナスカの地上絵、広大な地域を支配したインカ帝国――。砂漠の海岸地帯から標高3,000メートルの高地まで、アンデスの人びとは多様な環境の中で個性豊かな文化を築きました。
しかしアンデスの大地に花開いた文明の数々は、高度に発展しながらも文字を持たず、また貨幣や車輪の存在も確認されていません。そして、スペインによる征服によって多くの手がかりが永遠に失われたことにより、その謎の多くは未だに謎に包まれています。しかしながら、科学技術が発達した現代においてもミステリアスだからこそ、アンデスの魅力は私たちを惹きつけて離さないのかもしれません。
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