日本列島をアジアから見れば
時計の針を少しずつ進め、あるいは戻しながら地球をめぐる船旅。飛行機では味わえない「時間の旅」は、日本を世界の中で、そしてアジアの中で見つめ直す新たな視点を与えてくれます。ジャーナリスト・ノンフィクション作家の高瀬毅さんによる連載、最終回をお届けします。
高瀬毅 / ジャーナリスト・ノンフィクション作家
長崎市生まれ。被爆二世。元ニッポン放送記者。ラジオドキュメンタリー『通り魔の恐怖』で日本民間放送連盟賞最優秀賞。ラジオ・TVのナビゲーター、コメンテーター、雑誌『AERA』の「現代の肖像」で40人の著名人を取材。著書に平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞を受賞した『ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」』(平凡社・文春文庫)など多数。2025年『「ナガサキ」を生きる──原爆と向き合う人生』(亜紀書房)を上梓。
YouTube「デモクラシータイムス」で政治問題を中心に発信
地球を一周するクルーズも飛行機と同じで時差の問題がある。ピースボートは次の寄港地に時間を合わせるため調整しながら進んでいくことになる。船は平均速度は時速約30キロ前後なので、一気に時間が変わることはないので、時差調整は一日に1時間。回数も多くはないため、飛行機の旅のような極端な時差ボケは起きない。夜12時(24時)になると、「時計の針を1時間戻してください」「1時間早めてください」とのお知らせがある。球体の地球を旅するってこういうことだよね、と最初は新鮮なのである。
私が乗船したVoyage122は東廻り。多くは西廻り(日本→東南アジア→欧州→北米・南米→日本)で、何回かに1度東廻り(西廻りと逆コース)がある。最後は日本に戻ってくるので同じかというとそうではない。西廻りだと現地時間は日本より「遅い」方向へ進むのに対し、東廻りは「早い」方向へ進む。「西」は時間に余裕が生まれ、「東」は減る。それが連日続く時期がある。お酒が好きな人(私も)は、時間が1時間延びて欣喜雀躍。東は時間を失っていくのである。人生すこし損した?(笑)感覚。でもそれはそれで面白い体験なのだった。
そんなすこし損をする感じの東廻りの良さは、アジアの海から日本に帰って来る感覚、視野を獲得できるところにあると思う。メルカトル図法の世界地図を見ると、日本はアジアの東の最東端にある。中国や朝鮮半島は西側。東南アジアは西南の位置だ。世界の近代化をリードした欧州から見て日本はファーイーストだなと改めて実感する。ただ、日本はアジア諸国の中で、いち早く欧米的近代化を成し遂げた国なので、どうしてもアジアへの「視力」が弱いところがある。だが、東廻りクルーズでは、アジアの海を通って辿りつく格好となる。
この感覚は、何度も触れてきた大航海時代の波に乗ってやってきた貿易商人や宣教師たちの感覚と同じということになる。欧州から大西洋を南下し、アフリカ大陸南端の喜望峰を廻ってインド洋。マラッカ海峡を抜けて南シナ海。そしてさらに貿易の利を求めて東シナ海、台湾、琉球、日本列島へと欧州人たちは船をすすめたのだ。その最終的な位置にあった日本と、その後400年余りの歴史の中で、友好と対立、戦争、和解とさまざまな出来事を重ねてきた。今日のグローバルな世界の扉を開いた歴史の転換点を想いながら、東アジアへと入った。
最後の寄港地は台湾の北端の港町基隆(キールン)。台北から30キロ弱くらいの位置。決して華やかではないが、活気と庶民性に味わいがある。この町の近くにはスタジオジブリのアニメ作品「千と千尋の神隠し」の油屋のモデルとなったとも噂される建物や、複雑な路地が斜面地に展開する台湾有数の観光地「九份」もある。台湾は、いま日本ではこうした魅力的な観光地か、「台湾有事」という観点から語られることが多い。両方とも大事だが、両者の間に語られない台湾があるはずだ。周辺の大国に支配された歴史を抜きには台湾を語れない。むろん日本も支配した側としてある。台湾は親日的と言うだけは済まされない過去。台湾とはなにか。もっと深く知るために再訪したい。これからはアジアの時代が来るだろう。より良い関係を作るためにも、個人でもできること、するべきことがあると思う。
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