スナフキンのように生きる。北欧の夏だからこそ可能な自分の人生の再考
鐙麻樹 / 北欧ジャーナリスト、北欧・日本プロジェクトコンサルタント
オスロに2008年から在住。ノルウェー、フィンランド、デンマーク、スウェーデン、アイスランドに関する情報を発信中。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年、同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会会員。
スナフキンのように生きる。
北欧の夏だからこそ可能な自分の人生の再考
長い冬を越え、北欧が輝きを増す初夏。街のそばに広がる森や湖に出かけ、太陽の光を浴びながらゆったりと過ごす北欧の人びと。そんな夏の日常には、北欧の豊かさを支えるヒントがあります。なぜ初夏が北欧を訪れるベストシーズンなのか。その魅力を、オスロ在住のジャーナリスト・鐙麻樹さんが語ります。
鐙麻樹 / 北欧ジャーナリスト、北欧・日本プロジェクトコンサルタント
オスロに2008年から在住。ノルウェー、フィンランド、デンマーク、スウェーデン、アイスランドに関する情報を発信中。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年、同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会会員。
多言語学習者(9か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関「イノベーション・ノルウェー」より活動実績を表彰される。著書に『北欧の幸せな社会のつくり方:10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち:北欧・ジェンダー平等社会のつくり方』(かもがわ出版)がある。
「あ、またリアル・スナフキンがいる」。北欧の都市には川や海などの水場が多いため、ひっそりと釣りをしている男性たちをやけに見かけます。ムーミンの物語に登場する、自由な時間をひとりで楽しむクールなスナフキン。私は心の中で彼らを「リアル・スナフキン」とよんでいるのですが、皆さんも道中で遭遇するかもしれません。
オーロラなどで冬のイメージが強い北欧ですが、夏は素敵な魔法があちらこちらで発生する時期だと私は思っています。人が行き交う都市の中心部から、徒歩10分圏内で、目の前に壮大なフィヨルドが広がる。そこでサウナに入り、海水でぷかぷかと浮かぶ。路面電車で30分ほど車窓の風景を眺めていると、森や湖のある空間にいつの間にか瞬間移動している。日本の都市生活ではまず難しいライフスタイルを、オスロでさらっと実現することができます。北欧諸国といえば、幸福度の高さをはじめとして、さまざまな世界ランキングで上位常連国であることが有名です。その秘密のひとつが、「自然にすぐにアクセスできる」日常です。では、生活圏内で自然を北欧レベルで維持するにはどうすればいいのでしょうか。日常的に政治の会話に参加し、自治体選挙などでそういうことを大事だと思っている政党や候補者に投票することも必要です。このように、船上から降りて、北欧の地をめぐっていると、いくつもの幸福のヒントを探し出すことができるでしょう。
皆さんが降り立つ6月はまさに夏の始まりの時期でもあります。日本では8・9月が暑い夏かもしれませんが、北欧では6・7月が最高に心地よい夏の風を浴びることができる頃合いです。「寒い・暗い・長い」の三拍子を奏でる冬の後に訪れる夏は、喜びと幸福度が高まる時期なのです。最近では、私も窓からの日差しに「ありがたや」と感謝するようになりました(!)北欧の人たちは心の中で「太陽信仰」をしていると私は思っています。暗い時期が1年の大半を占めるからこそ、晴れの日には外に出て、日光を浴び、「ゆったりと過ごさなければ、人生の損」といってもいいほどの強い思いがあるようです。ベンチ、公園、海沿い、カフェのテラスで、肌を出して流れる時間に身を任せる「スナフキンみたいな人」を、きっとどこかで目にするでしょう。必死に日光浴をしているのには理由があります。「ビタミンDの摂取」です。日光を肌に直接浴びるとビタミンDが合成され、冬に不足すると気持ちが落ち込みやすくなるため、魚のオイルを飲んで対策するというのが北欧の常識。私はこれをオスロ大学のノルウェー語の授業で学び、きょとんとしたものです。夏に現地の人びとが外でゆるりと時間を過ごしているシーンは、北欧社会のさまざまな事情を物語っています。
悠々とした時間を過ごすという意味では、皆さんも船上でまさにその時間を体験できますね。働き過ぎとも国際的に知られている日本の国境を越えて、静かな時間を長く過ごすことは容易ではありません。「なにかしたくなる」「落ち着かない」感覚の波が、何度もあなたのドアをノックしてきます。ですが、このような北欧の夏らしい時間は、「自分」を取り戻すきっかけにもなります。また船上ではネットの使用量も限られるため、スマホやSNSから離れた時間が生まれます。代わりに、きっと船内で誰かと小さな対話をすることになるでしょう。デジタルなコミュニケーションが増え、分断が課題となった現代において、このような時間や交流ができる空間は「現代のラグジュアリー(贅沢な体験)」だと思っています。
幸福度の高さでいえば、良質なデザインに囲まれた人生を送ることも関係しています。北欧には「美しいデザインは住民のウェルビーイングを向上させる」と理解している政治家や教育者が驚くほどに多いと、これまで取材を通じて感じてきました。コペンハーゲンの建築や暮らしを彩るデザイン、ヘルシンキで見かける日常用品の造形の美しさ。「北欧デザイン」という言葉が国際的に浸透しているのには理由があるのです。私は旅先ではローカルなデザインのポストカードを探し、居心地のいいカフェで美味しいコーヒーを飲みながらメッセージを手書きし、現地の郵便局で切手を購入し、日本にいる誰か大切な人に投函するという一連の時間の流れを旅の儀式にしています。
夏には延々と明るいままの夜にも驚かれることでしょう。このようにこのタイミングだからこそ可能な特別な瞬間というものがあります。あの湿気の少ない心地よい風を、ぜひ皆さんにも感じてもらいたいものです。スウェーデンではコーヒーや甘いお菓子を楽しむ時間を「フィーカ」といいます。現地でフィーカしながら、北欧の人の夏の感覚をリアルに体現しにきてみませんか。
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